アミノ酸であるトリプトファンのように疎水性部位とイオン性部位とを持ち合わせたゲスト分子を有効に認識するためには、その両方を認識する部位を有するホストを構築する必要がある。シクロデキストリン(CD)は疎水性分子を認識するのに優れたホストである。一方、クラウンエーテルは正電荷イオンを認識するのに優れたホストである。そこで、この2つを結合するれば、疎水性部位とイオン性部位とを認識するホストを構築できる。また、イオン性部位として酸性溶液におけるトリプトファンの四級アンモニウムを選んだ場合、溶液のpHに依存させた分子認識活性の調節機能を持たせることができる。ところで、CDには、一級水酸基側と二級水酸基側の二種類の疎水性空洞出口が存在する。ゲストのイオン性部位がどちら側の部位を向いてCD空洞に包接されるかは、ゲスト分子全体とCD空洞との様々な相互作用によって決まる。したがって、どちら側の水酸基にクラウンエーテルを導入するかが問題である。 そこで、CDの一級水酸基側にクラウンエーテルを導入した修飾CDと二級水酸基側にクラウンエーテルを導入した修飾CDの二種類を合成し、それらのトリプトファンに対する結合能力のクラウンエーテルを導入したことによる効果を検討した。一級水酸基側修飾体の結合定数の向上は小さかったが、二級水酸基側にクラウンエーテルを導入する事により6倍程度の結合定数の向上が見られた。また。包接複合体の構造を2次元NMRスペクトルにより解析し、トリプトファンはアンモニウムイオンを二級水酸基側に向けて包接されていることを確認した。この結果から、CDに結合能力を向上させる部位を新たに導入する場合、どちらの水酸基側に認識部位を導入するかが重要であり、トリプトファンの場合二級水酸基側にイオン認識部位を導入することが有効であることがわかった。
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