エステルの分解反応を触媒するイミダゾール基の両側に基質取り込み部位を配置した人工酵素がアロステリック様作用を示すことをすでに報告している。この人工酵素を触媒としたエステル分解反応の際に、基質の他に基質類似物質を添加したところ反応が加速された。基質のみの反応の際にも人工酵素は2分子の基質を包接した状態で反応が進行していると考えられ、基質の1分子はスペーサーとして働いているものと思われる。従って、基質で飽和していない状態の人工酵素に基質類似物質を添加すると、基質類似物質はスペーサーとして働き、反応を加速したものと思われる。すなわちこの人工酵素は、反応制御因子となる分子を添加することにより反応を制御することができることがわかり、当初の目標である「ヘテロトロピックなアロステリック効果を発現すること」に成功した。 また、ベンゾイン縮合を触媒するチアゾリウム基の両側に基質取り込み部位を配置した人工酵素の基質特異性をアニスアルデヒドの位置異性体を基質として使って検討すると共に、人工酵素が基質を取り込んだ状態の構造を分子力学を使って推定した。この反応の律速段階は2分子目のアルデヒドが反応中間体と反応する段階であるが、この律速段階がスムーズに進行できるかが重要であり、異性体によっては反応を減速してしまうことがわかった。この結果は、反応の律速段階への移行を制御できれば、反応速度を制御できることを示しており、このことから、人工酵素の2つある基質結合部位間の相対配置を制御する機構を有する分子を設計すればこの反応を制御できることがわかった。
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