キラルなアリールセレノ基を不斉補助基として有する一連のα-セレノケトンを合成し、これらの不斉還元反応、アルキル化反応および参加的不斉転移反応に関し立体化学の研究を行った。キラルアリール基としてはフェロセンアミン、フェロセンオキサゾリンおよび比較検討ためアルコキシベンゼンを用いた。キラルなフェロセン系セレノメチルアルキルケトンの還元反応を種々の還元剤を用いて検討したところ、ジイソブチルアルミニウムヒドリド(DIBAH)を使用したときにほぼ単一の生成物が得られたが、ベンゼン系の誘導体では選択性は非常に低かった。(27%de)。フェロセン系のセレノメチルケトンとグリンヤール試薬や有機スズなどの有機金属試薬とある程度の選択性でアルキル化反応が進行したが(36%de)、ベンゼン系の化合物ではほとんど選択性が発現しなかった(5%de)。生成した、α-ヒドロキシセレン化合物は、スズヒドリドやオキサボレーとで処理することで、それぞれ対応するアルコールやエポキシドへと立体化学を保持したまま変換できた。セレノプロピオフェノンを対応するα-セレノアセタールへと変換し、メタクロロ過安息香酸(m-CPBA)による参加的フェニル転移反応を試みた。いくつかの方法により鍵となるα-セレノアセタールの合成を試みたが、成功に至らなかった。α-アルコキシセレニドの酸化的転移反応の可能性に関し検討を行った。メタノール中でセレニド対し5倍過剰のm-CPBAを酸化剤として用いて反応を行ったところ低収率ながらフェニル基の転移した生成物、すなわち3-フェニルプロパナールの生成が確認できた(7%)。本来の酸化的フェニル転移は、α-セレノアセタールにおいて高収率で進行しているが、これはアセタール基で安定化されるカルボカチオン的中間体の安定性が反応の推進力になっているからである。一方、本反応においてはメトキシ基が十分にカルボカチオンを安定化できず、結果として転位反応生成物の収率が低いと考えるのが妥当であろう。
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