研究概要 |
本研究は、これまでブラックボックスとされてきた酵素反応を化学触媒と同程度に理解し、合成化学への利用の新たな展開を図ることが目的である。大きく分けて二つのテーマからなり、第一は昨年に引き続きCandida rugosa lipase(CRL)の活性部位の構造と反応性に関する研究を進めた。本年は特にCRLのトンネル部の三つのポケット(L,M,S)の大きさを明確にすることを目的に種々のカルボン酸のp-nitrophenyl ester体を用いて検討した。その結果、Lpocket〉phenyl,ethyl〉M pocket>methyl〉S pocket〉hydrogenであることが明らかになった。次に第二のテーマとして酵素を自在に操ることを目的に、基質により酵素のコンホメーション変化を引き起こし、それにより立体選択性を改変することを検討した。実際には嵩高い置換基を有するビニルエステルを用いた高立体選択的リパーゼ触媒トランスエステル化反応を検討することとし、これまで立体選択性良く光学分割されていない2-phenyl-1-propanolの光学分割を取り上げた。その結果、vinyl3-phenylpropanoate/Pseudomonas cepacia lipaseで立体選択性(E値)が10倍向上することが明らかになった。一方、嵩高い置換基を有するカルボン酸の2-phenyl-1-propanol esterの立体選択的加水分解も行った結果、Porcine pancreatic lipaseでE値が100を超えた。同様の現象は1-phenylethanol/vinyl3-phenylpropanate/CRL系でも起こり、その理由を反応速度から詳細に検討した結果、反応速度が極端に落ちるところで立体選択性が大きく変化することが明らかになった。
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