研究概要 |
本研究は反応場における酸素の基質認識を様々な分子を用いて系統的に研究し、これまでブラックボックスとされてきた酸素反応を化学触媒と同程度に理解し、合成化学への利用の新たな展開を図ることが目的である。第一に代表的な加水分解酵素の一つである。Candida rugosa 由来のリパーゼ(以下CRLと略す)について検討することとし、最初に種々の濃度2-プロパノール水溶液と処理することによる活性部位の立体構造の変化について詳細に検討した。その結果、立体構造の変化は2-プロパノール濃度が約30%のところで起こっていることが明からかになった。またCRLのトンネル部の三つのポケット(L,M,S)の大きさを明確にすることを目的に種々のカルボン酸のp-nitrophenyl ester体を用いて検討した。その結果、L pocket>phenyl,ethyl>M pocket>methyl>S pocket>hydrogenであることが明らかになった。次に第二のテーマとして酸素を自在に操ることを目的に、基質により酸素のコンホメーション変化を引き起こし、それにより立体選択性を改変することを検討した。実際には崇高い置換基を有するビエルエステルを用いた高立位選択的リパーゼ触媒トランスエステル化反応を検討することとし、これまで立位選択性良く光学分割されていない2-phenyl-1-propanolの光学分割を取り上げた。その結果、vinyl 3-phenylpropanoate/Pseudomonas cepacia lipaseでE値が10倍向上することが明らかになった。一方、崇高い置換基を有するカルボン酸の2-phenyl-1-propanol esterの立体選択的加水分解も行った結果、Porcine pancreatic lipaseでE値が100を超えた。同様の現象は1-phenylethanol/vinyl 3-phenylpropanoate/CRL系でも起こり、その理由を反応速度から詳細に検討した結果、反応速度が極端に落ちるところで立位選択性が大きく変化することが明らかになった。
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