ポリペプチドのヘリックスセンス反転等の高次構造変化のメカニズムを明らかにするため、側鎖にアゾベンゼン基を結合し、アゾベンゼン基の光異性化に伴う主鎖・側鎖のコンフォメーション変化を核磁気共鳴(NMR)により原子レベルで調べ、以下の結果を得た。 1) poly(β-n-propyl L-aspartate)(PnPLA)がヘリックスセンス反転し、そのNMRスペクトルが各原子で重ならないため都合の良い試料であるため、本試料(分子量60000)を以下の実験で用いた。 2) 溶液中では温度上昇に伴い右巻α-へリックスから左巻α-ヘリックスへ可逆的にヘリックスセンス反転し、^<13>CNMRスペクトルの化学シフトは両者で全て異なる。転移温度領域は溶媒に依存する。重クロロホルムでは40〜50℃、重テトラク口口エタンでは20〜50℃である。NMRにより高次構造を決定するためには、距離・角度情報を得る必要がある。PnPLAはへリックス構造の固い棒状分子のため、分子運動の速さが遅くなりそのスペクトルは広幅化し、距離・角度情報を得ることが困難だったので、微量の有機酸を加えた測定を行い、ヘリックス構造の精密化を行う予定である。 3) 飽和移動NMR法によりヘリックスセンス反転速度2〜5/sを求めた。 4) エステル交換法によりアゾベンゼン基をPnPLAに導入した。導入量は2〜30%である。ヘリックスセンス反転温度に関してはPnPLAとほとんど同じで、アゾベンゼン基の有無による変化や光異性化による変化も観測されなかった。 5) PnPLAの固体フィルムは120〜130℃で一次相転移した。これに伴い、固体^<13>CNMRスペクトルの化学シフトも右巻α-ヘリックスから左巻へリックスに変化した。 今後はアゾベンゼン基の導入量を更に増やし、光異性化によるコンフォメーション変化の有無を検討する。
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