本研究では、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)を中心としたセルロース誘導体及び関連多糖のリオトロピック液晶並びにゲルを主対象として、相構造に及ぼす無機塩の共存効果を明確にすると共に、コレステリック呈色現象や白濁相分離等の光学機能を外部刺激によって制御する方法について検討した。主要な成果をまとめると以下のようになる。 1.HPC/塩水系ヒレステリック液晶のラセン周期およびLCSTは、共存塩イオンのカオトロピック効果の大小序列に対応して、それぞれ増減、昇降することを明らかにした。この際、塩イオンは分子配向度には殆ど影響を及ぼさないが、近隣の糖鎖のコンホメーションと擬ネマチック層間のねじれ角を鋭敏に変化させることがNMR測定結果より示唆された。 2.HPC/塩水系液晶のコレステリック呈色状態および透明度を外部電圧の印加によって定温で制御する調光・遮光用デバイスを考案し、電極並びに電界印加条件の最適化を図った。また、電位差測定を通じ、呈色・透明度の経時変化を塩イオン濃度の分布変動と関連づけてより明快に説明することができた。 3.HPCのリオトロピック溶媒にメタクリレート系モノマー混液を使用し、重合・架橋反応することで、呈色を示すコレステリックフィルムを作製し得た。この液晶構造固定化フィルムを各種の塩水中に浸漬膨潤させると、カオトロピックイオン効果の作用で、呈色変化や白濁化が誘起されることが判った。 4.関連する研究成果として、水溶性キチン誘導体の合成と相挙動観測、液晶形成セルロース誘導体の分子特性解析、多糖ベースの新規ゲルネットワークの作製、等を遂行した。
|