ゴムの結晶化機構はこれまで、種々の結晶化段階で固定・染色した薄膜試料を透過型電子顕微鏡(TEM)観察するという「間接的方法」で議論されてきた。本研究の目的は、配向薄膜の結晶化をTEM内で行い、制限視野電子線回析、明視野defocus contrast法、暗視野法などの「直接的方法」によって、さらには、結晶化過程を実時間その場観察することによって、その機構を解明しようとするものである。得られた成果の概要を以下に示す: 1.伸長歪み(ε)を与えた薄膜をTEM内で、天然ゴム(NR)については-25℃で、クロロプレンゴム(CR)については-5℃で等温結晶化させた。NRでは一面一軸配向が示された。NRとCRについて、「α-フィラメント」がedge-onラメラ晶であると確認した。ε=500%まで素早く伸長したCRでは、パラクリスタル的な構造が示唆された。 2.自作の「延伸薄膜試料作製装置」を用いて、強い歪み(ε≧500%)を与えたNR薄膜を作製した。例えば800%の場合、-25℃で結晶化後は積層ラメラ構造が認められたが、等温結晶化以前では、伸長方向に並ぶフィブリル(約25nm幅)が観察されたものの、ラメラ構造は認められなかった。このフィプリルは「シシ結晶(すなわちγ-フィラメント)」またはその集合体であると考察した。 3.ε=200%を与えたNRについて、-80℃でのTEM像撮影と-25℃での結晶化とを繰り返すことにより、結晶化過程を追跡し得ることを示した。既設の試料加熱ホルダーと自作の「精密温度制御装置」とを用いてi-ポリスチレン配向非晶薄膜をTEM内で150℃で結晶化させ、edge-onラメラ晶の成長をTVシステムで追跡し得ることを示した。これらから、時間分解その場TEM法が、高分子の結晶化過程を追跡する有効な手段であると確認した。 4.以上の結果を基に、ゴムの配向結晶化機構を提案した。
|