我々が超小角X線散乱(USAXS)測定により見い出した、コロイド結晶における粒子間距離が、イオン強度の減少と共に減少する現象は、従来の新旧コロイド間相互作用では説明できない、新たな発見であり、少なくとも低イオン強度下では、今まで考慮されていないメカニズムが存在することを示している。 これを明かとするため、本年度は、(1)コロイド結晶構造の温度依存性、(2)カウンターイオン種の影響、(3)超小角中性子散乱(USANS)によるコロイド合金構造の解析、をさらに詳細に推し進めるとともに、上記現象の理論的考察を行った。以下がその成果の概要である。 (1)イオン強度依存性で観察されたコロイド結晶中の粒子間距離の変化は固液相転移に相当する現象が、温度変化により60C付近で同様な融解現象として種々の粒径、電荷密度を有するコロイド粒子について確認した。さらにこの現象が可逆的であることを確認した。 (2)コロイド粒子のカウンターイオンをH^+からNa^+に徐々に変化粒子間距離は増大し、構造が崩壊していく現象について、詳細なUSAXS測定を行い、その散乱曲線をLindemanの融解則および三次元派らクリスタル理論により解析し、構造変化の定量的情報を得た。その結果、H^+では固体様結晶構造を形成する条件でもNa^+では液体様構造しか形成し得ないことを確認した。これにより粒子間相互作用にはカウンターイオンの荷数のみならず動的性質が重要な寄与をしていることを確認した。 (3)D体とH体のラテックス粒子を混合した系で合金構造が発現する現象について、USANSにより、さらに詳細に検討した。その結果、粒径、電荷数、濃度の相対的関係により、それぞれ一方の粒子のみ結晶構造を形成する条件が存在することが明らかとなった。 以上により、低イオン強度下における粒子間相互作用はDLVO理論など従来の「静電的」理論ではなく全く説明できないものであることを確実に証明するとともに、動的揺らぎを考慮する必要性を明確に示すことができた。
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