近年、注目されている紫外線照射の問題から、常に太陽に曝されている蜘蛛の糸が、紫外線に強い繊維素材となり得るかどうかを探索研究することを目的とした。試料として、生息場所を探索し、できるだけ特定の場所から採取したジョロウグモの牽引糸を用いた。採取した蜘蛛の糸の各成長過程で牽引糸を採取し、その構造を走査型電子顕微鏡で観察するということにより、牽引糸の直径を求めた。同じ時に採取した牽引糸の一部を用いて応力-歪曲線を測定し、破断強度および弾性限界強度を求めた。特に、紫外線照射前後の牽引糸の物性を比較をする上で、紫外線未照射時における力学測定は極めて重要である。そこで、まずは、未照射の牽引糸において力学特性の成長過程依存症を明らかにした。弾性限界強度と体重との関係から、成熟した蜘蛛の安全率は2であることに加えて、子蜘蛛における牽引糸の安全率が3であることも明らかになった。 一方、紫外線照射した時の力学特性を調べた結果、破断強度は照射時間とともに低下したが、弾性限界強度は長時間の紫外線照射にもかかわらず変化しないことを見い出し、劣化との関係で興味深い結果が得られた。 屋外での紫外線照射量測定により、6月から7月にかけて紫外線強度が最も強いことが明らかになり、一方、多量集めた蜘蛛の牽引糸の色差測定を行った結果、牽引糸は8月の終わり頃から黄変し、それを境に紫外線劣化が著しくなることを見い出した。 本研究では、蜘蛛の糸は蚕の糸と比べて、紫外線に強く、しかも、若い頃に採取した蜘蛛の糸ほど紫外線に強いことも明らかになった。今後、さらなる物理化学的研究が必要と考えている。
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