単分子膜の表面力学物性は、膜の安定性、撥水性、耐摩耗性などと密接に関連している。有機シラン化合物を水面上に展開後重合し、基板上にポリアルキルシロキサン超薄膜を固定した。表面力学特性を評価するため、水平力顕微鏡(LFM)測定を行った。ポリアルキルシロキサン単分子膜の水平力のアルキル鎖長およびフルオロアルキル鎖長依存性を評価した。アルキル鎖長の長鎖化に伴い水平力は増大することが明らかとなった。これは、アルキル鎖長の長鎖化により分子間の凝集力が増大し、それに伴い剪断強度が増大したことに起因すると考えられる。一方、フルオロアルキルシラン単分子膜の場合、フルオロアルキル鎖は螺旋構造を有するため、分子自体は非常に剛直であり、剪断強度は高く、高い水平力を示した。またバルキーで極性が高いフルオロメチル基の存在も水平力に寄与する因子の一つである。種々の温度で、オクタデシルトリクロロシラン(OTS)単分子膜の分子凝集状態を赤外吸収分光(IR)測定に基づき、また、分子運動特性を種々の温度でのLFM測定に基づき評価した。va(CH2)のピーク波数の温度依存性は、240Kおよび330Kを境に急激に変化した。IRの結果は、OTS単分子膜が240Kおよび330K付近で、それぞれ長方晶から六方晶へと、また、六方晶から非晶状態へ転移することに対応している。一方、水平力は温度の上昇に伴い、240Kおよび330K付近において著しく減少した。これらの温度域は、IR測定より得られた分子凝集状態が変化する温度域とよく一致した。長方晶の場合と比較して、六方晶の単位面積当たりの分子鎖数が少なく、分子運動性が活性化されたため、水平力が低下したと考えられる。さらに、非晶状態では、六方晶と比較してアルキル鎖の分子運動が著しく活性化されているため、カンチレバー探針-試料表面間の剪断強度が低下し、水平力は低い値となったと考えられる。
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