イネのソマクローナル変異をイネ育種に利用するためには、再分化植物やその後代植物の実用形質について選抜を行い、目的の形質を持つ系統を育種していく必要がある。本研究ではその変異をDNAレベルで検出し実用形質との関係を明らかとするとともに、短期間(4カ月)の継代培養と長期間(36カ月)の継代培養でDNAレベルの変異はどのように異なるかを明らかにしようとした。 1)短期間の培養変異 イネ品種、レイメイの種子からカルスを誘導し4カ月間継代培養後、植物体を再生させガラス室で育成し稔実させ、その植物の形質を調査した結果、10個体の再生植物のうち2個体において、稈長が原品種より平均8cm短い個体を得ることができた。その他の形質は全く原品種と同様であった。この変異個体2個体のうち1個体および原品種の葉身からDNAを抽出し、AFLP法によって変異性を分析したところ、わずかながら移動度の異なる変異の増幅DNA断片の存在することが確かめられた。しかし、これらの変異のDNA断片が短稈と関係しているということを確認することはできなかった。 2)長期間の培養変異 イネ品種、Tadukanの種子からカルスを誘導し、12のカルス系統ごとに36カ月継代培養後、植物体再生を試みたが全てのカルス系統において植物体再分化を示さなかった。そこで、これらのカルス系統からそれぞれDNAを抽出し、イネ品種日本晴の葉緑体DNAをプローブに用いて、サザンハイブリダイゼーションを行い、葉緑体DNAの変異を試験した。その結果、2カルス系統においてそれぞれ、63kbおよび76kbの大きな欠失の存在することが明らかになった。2つの欠失変異系統で共通して存在する部分は光合成の光化学系IIのpsb遺伝子群およびtrn遺伝子群を含む約20kbであった。2つの欠失変異系統のうち1系統は変異の末端で互いに連結し、ダイマーとなり、環状構造が崩れ線状構造になっているということが示唆された。
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