研究概要 |
近年の研究から核ゲノムにコードされた光合成関連遺伝子,Rubisco小サブユニット遺伝子(rbcS)やクロロフィルa/b結合タンパク質遺伝子(cab)の転写が葉緑体側からのシグナルによる影響を受けていることが明らかになっている。カロチノイドを欠損した突然変異体や薬剤でカロチノイドの生合成を阻害した植物に強い光を当てると,励起状態のクロロフィルが生むラジカルを消去できずに,クロロフィル自身を含む葉緑体の各種成分が酸化され,その結果として葉緑体の分化が起こらず白色の植物となる。この現象は光脱色(photobleaching)と呼ばれる。このとき細胞質やミトコンドリアのタンパク質の量はほぼ正常であるが,cabやrbcSなど核コードの光合成関連遺伝子の発現が転写レベルで抑制されている。以上のような事実から葉緑体の分化が阻害されると,葉緑体から何らかのシグナルが生じ,これが核に伝わり,光合成に関連する核ゲノムコードの遺伝子の転写を止めるというモデルが提唱されている。これは葉緑体側からも核コードの葉緑体遺伝子の転写をコントロールする何らかの情報伝達経路の存在を示している。 本研究においてイネの発芽時にカロチノイド生合成の阻害剤norflurazonを処理して光脱色させたイネの葉で葉緑体リボソームタンパク質遺伝子rps1,rpl21の転写物の蓄積を調べたところrbcSやcabでは未処理で育てたものと比べて光脱色させた葉では転写物の蓄積量がはっきり減少していたのに対し,rps1とrpl21では未処理の葉と光脱色させた葉で蓄積量に違いは見られなかった。このことから核コード葉緑体リボソームタンパク質遺伝子は葉において葉緑体の分化の状態に関係なく構成的に転写され,核コードの光合成関連遺伝子とは異なる転写制御を受けていると考えられる。
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