本研究成果報告書の概要は下記の通りである。 1)、バヒアグラスの蕾を透明処理してその胚嚢形成過程を明らかにした。大胞子退化の代わりに、珠心組織の細胞が膨大してアポスポリー性胚嚢始原細胞(AIC)として出現し4核胚嚢を形成した。AICの数が大胞子退化後から開花当日まで子房長の増加につれて増えた。また、開花後の花を時間を追って追跡・調査した結果、開花当日に優先的に成熟した珠孔側に位置する胚嚢がその後も位置的な優勢をもち、胚形成されるが、側位の胚嚢の胚も珠孔側の胚嚢の胚乳を共有して最終的に多胚種子を形成することが明かとなった。2)ギニアグラスのAIC出現時期の微細構造解析では、機能のある大胞子母細胞が減数分裂して2分子の段階で退化した映像は今回で初めて観察された。通常、珠心細胞は薄い細胞壁に囲まれるのに比べて、退化した大胞子の近くに位置する数珠心細胞は膨大し、独立した厚い細胞壁で囲まれ、細胞質連絡が存在しないことは珠心細胞からAICに生まれ変わったことを示唆する。3)、酵素処理によって胚嚢構成生殖細胞のプロトプラストの単離を試みた。その結果、プロトプラストは大(平均87.7μm)、中(平均50.5μm)、小(平均20.8μm)に分類することができた。胚嚢分析の結果とあわせてみると大細胞は卵細胞で、中細胞は極核と助細胞で、小細胞は胚嚢以外の組織であると判断できた。4)、子房長を指標としてDifferential screening法を用いて、AIC出現時期に特異的に発現する遺伝子のクローニングを行なった。ASG-2cDNAクローンは1199bpで173個のアミノ酸をコードするORFが確認された。ASG-2は既知の種子発育や胚発育に関与する遺伝子との類似性を示した。5)、In situ hybridization実験では、A2-1(AIC出現時期)では、シグナルがAIC細胞で強く発現していることが認められた。A2-2では、シグナルが専ら胚嚢内の生殖細胞で強く発現した。一方、A1、S1、S2の子房内では、シグナルが認められなかった。6)、ギニアグラスの葉鞘からsomatic embryogenesisを経由して簡便かつ効率的な植物体再生系を確立した。目下、この培養系を用い、遺伝子導入実験を実施中。
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