研究概要 |
一般に二酸化硫黄は植物の光合成速度を低下させ,農作物の収量を低下させることが知られている.本研究では水稲14品種を用いて,水稲の光合成速度に及ぼす二酸化硫黄の影響について検討した. 二酸化硫黄処理(二酸化硫黄濃度1ppm×15分間処理したのち,60分間の回復過程を含めた75分処理)における光合成速度の変化から「阻害率」「回復率」「二酸化炭素固定割合」を指標とし,光合成速度に及ぼす二酸化硫黄の影響を判断した.まず,適切な二酸化硫黄処理方法を確立するために,それらの指標に関与する要因として,二酸化硫黄処理時間帯,同化箱への入口流量,処理部位,光量および生育段階の違いについて,日本の代表的な品種である「コシヒカリ」を供試して,検討した.その結果,品種間を比較する場合には,出穂後10日目の止葉を用いることが適切であると判断した. つぎに,育成年度の異なる水稲品種14品種を供試し,水稲の光合成速度に及ぼす二酸化硫黄の影響の品種間差異について2年間検討したところ,阻害率は品種間に有意差がみられ,二酸化炭素固定割合は年次により有意差がみられ,回復率は品種間で有意差がみられなかった.よって,阻害率から品種を比較するのが適切であった.その結果,比較的導入年度の古い品種(京都旭,亀ノ尾,愛国)は新しい品種(初星,あきたこまち,コシヒカリ)に比べ,光合成速度に及ぼす二酸化硫黄の影響をより受けやすいことが明らかとなった. 光合成能力が改善された新品種は,気孔伝導度が高く二酸化炭素が葉内へ速やかに移動し,ルビスコ等光合成関連酸素の活性が高いことが知られている.二酸化硫黄が体内に取り込まれると硫酸イオンに変化し,新品種はこれを速やかに代謝する系の活性が高いと思われる.
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