1.面積あたり穎花数の推定サブモデルの構築と有効性の検証 京都において、圃場および既存の温度傾斜型チャンバー(TGC)装置内で水稲の栽培試験を行い新たなデータを収集した。そして既に収集の水稲の穎花数、窒素(N)および非構造性炭水化物(NSC)含有量のデータををあわせて解析した結果、水稲の穎花数に大きな影響を及ぼす要因が穎花分化期の地上部N含有量と幼穂分化期から穎花分化後期の期間の平均気温であることがわかった。そこで、この2要因から面積当たりの穎花数を推定するサブモデルを構築した。次に、このモデルの有効性を検証するため、島根県松江市および島根県飯石郡赤来町において、水稲の栽培試験を行いバリデーション用データを収集し、本モデルに適応した。その結果、本モデルによる穎花数の推定精度は極めて高かった。また、モデルのパラメータ値も生理学的に妥当なものと考えられた。このことより、本サブモデルは穎花数推定に有効であると考えられた。 2.出穂率を推定するサブモデルの構築 京都および松江において外気条件で生育した水稲を幼穂分化期にTGC装置内に搬入した後、日々の出穂数と開花穎花数を調査した。気温が出穂率に及ぼす影響を解析した結果、日々の出穂率は概ね気温の影響を受け、その速度が決まる発育指数によって表すことができることがわかった。そこでこの関係より、出穂率を予測するサブモデルを構築した。このモデルの推定精度はかなり高いものであり、出穂率推定に有効であると考えられた。 3.開花率を推定するサブモデルの構築 気温と開花率の間には弱い正の関係が認められ、気温から開花率を概ね説明できるものと考えられた。そこで、気温を関数とする開花指数(FI)を考案し、この開花指数より開花率を推定するサブモデルを構築した。本モデルは気温のみを要因としているため、やや推定精度は低かったものの、日々の開花率を概ね説明することができると考えられた。 4.日々の出穂・開花数推定モデルの構築 上記のサブモデルを結合し、気温から日々の出穂・開花数を推定するモデルを構築した。このモデルは個々の穎花の生長速度を積算した形の水稲の登熟過程の動的予測モデル構築のための、基本モデルになると考えられた。
|