○世界遺産条約に「文化的景観」概念が提起、導入される経緯およびその活用のされ方を考察。当該概念は、条約の規定に関する矛盾から導入されたものであり、遺産登録における地域間格差に関して大いに活用されている。 ○今後の施策検討のための基礎的研究に位置づけたイタリアの事例研究の成果は以下の3点から成る。 1)保護法制と保護動向を法定財物件数の推移と社会事象から考察した。同国の歴史的庭園は1939年制定の文化財の保護法と自然美の保護法の2法によって法廷材とされ、我が国の場合と大きく異なる点は、この2法が都市計画法の上位にあることである。歴史的庭園の保護は、(1)今世紀初頭の自然美保護思潮の影響下に具体化し、(2)保護法制の整備には、50年代後半からの市民運動や都市計画の拡充に明らかな相関がみられた。(3)70年代からは環境財という概念が導入されたことに強い影響を受け、(4)80年代、フィレンツェ憲章の草案を契機として、歴史的庭園の定義づけや具体的な保護・修復の手法等へと議論が深化。 2)法定財の目録づくりに関する「指針」を施策展開への第一段階と捉え、その策定背景と内容を検証。その結果歴史的庭園は、環境の総和と認識されていると理解され、その思想にはフィレンツェ憲章の存在と、1970年代以降の文化財行政の意識改革とも言える「文化財は環境財である」という概念が色濃く反映されている。 3)歴史的庭園の本質的な保存・継承は、都市計画にその保護施策を如何に位置づけるかにかかっていると考え、ローマの近代都市計画における都市緑地システムと歴史的庭園の消失・荒廃の事例を検証した。 ○我が国のケーススタディとして、東京に現存する江戸期の武家屋敷の庭園遺構を調査。確認した55件の庭園遺構を、(1)当時の所有者(藩名)、(2)現況、(3)所在地、(4)残存状況、(5)立地、(6)文化財指定の有無の6項目に整理、さらに、(7)ランドスケープ遺産としての価値付けを行なった。
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