研究概要 |
我が国の気候風土に適したキイチゴ品種の育成を目的として,数種の野生キイチゴを材料に花粉の貯蔵条件を検討すると共に,貯蔵花粉を用いて種間交雑を試みた.さらに,得られた実生を育成し,形態的な特性や花粉稔性を調査すると共に,RAPD法により雑種性を解析した. その結果,キイチゴの花粉発芽調査には,20%ショ糖と1%寒天添加培地で,25℃,暗黒条件下で12時間培養するのが適切と考えられた.これらの条件で5種の野生種の花粉発芽を調査したところ,いずれも70〜95%と高い稔性を示した.また,-20℃下で花粉を貯蔵すると,9ケ月後でも50%以上の高い発芽率が維持された.貯蔵花粉を用いて相互交配を行ったところ,刺の無いカジイチゴ(カジ)を種子親とした場合に着果率が高く,多数の種子が得られた.なお,発芽した実生はいずれも正常で旺盛な発育を示した. 種開雑種の樹勢は両親と比較して強く,葉はいずれも両親の中間的な形態を示した.開花は定植1または2年目で観察され,開花期は両親と同じ4〜5月であった.カジ×クマイチゴ(カジクマ)の花粉稔性は,いずれの系統でも高かったのに対し,他の種間雑種の花粉稔性は極めて低かった.従って,放任受粉で結実したのは,カジクマのみであった.カジクマの果実は,クマイチゴに似た赤色大果であったが,カジ×ヒメバライチゴとカジ×クサイチゴ(カジクサ)のそれらは淡黄色の小果て両親の中間的形態であった.カジクサについて,果実中の糖と有機酸含量を分析した結果,全糖含量は両親の1/2以下で,全有機酸含量は両親の中間的な値を示した.なお,RAPD法により,雑種性を解析したところ,全ての固体が両親の特異的なバンドを持っており,完全な雑種であることが確認された.
|