雑草型と栽培型の交雑実験と分子生物的解析によってヒエ属植物の種子休眠機構を明らかにすることを目的とした研究における最終年度の成果概要は、つぎのとおりである。 1.栽培型と雑草型の交雑による休眠性の遺伝様式の解析 タイヌビエの種子休眠性をもつ雑草型とこの形式を遺伝的に欠損した栽培型を正逆交雑した。実験で得た種子休眠性の異なるF_2個体の頻度分布から、この属の種子休眠性には種子を休眠させる方向に働く2対の主動遺伝子の存在が示唆された。F_2検定総個体数の1/16に近似される劣性ホモと考えられる個体のF_3種子の休眠性を検定したところ全て休眠性をもたなかった。 2.種子休眠法に関与するmRNAの単離と解析 ヒエ属植物の雑草型の休眠、休眠覚醒種子と栽培型の非休眠種子を供試して、Differential display法で休眠種子にのみ特異的に発現している2つのmRNAに対応するcDNAのEcD400とEcD700を得た。EcD400とEcD700の相同性をデータベース検索したところ、EcD400に対する既知の塩基配列はなかった。しかし、EcD700は、多くの生物種のミトコンドリアに存在するATP合成酵素(H^+-ATPase、EC3.6.1.34)のαサブユニットの一部と極めて相同性が大きかった。これまでの我々の研究結果を考え合わせると、ヒエ属雑草の休眠種子はH^+-ATPaseの機能するある程度発達したミトコンドリアをもち休眠を好気呼吸によって維持しているが、嫌気呼吸能を高めることによって休眠覚醒することが示唆された。
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