研究概要 |
報告者は、これまで九州内でのフェロモントラップによるハスモンヨトウ雄成虫の捕獲消長の比較から,ハスモンヨトウのかなりは台風到来時に海外から飛来してくると主張してきた。今年度も,昨年度に引き続きフェロモントラップによる発生消長の調査を、佐賀、鹿児島,沖縄,インドネシア,フィリッピン,台湾,さらに中国の3ヶ所で行った。その結果,フィリッピン,インドネシアではトラップに雄成虫はほとんど捕獲されず、台湾でも捕獲数は日本でのそれに比べてはるかに少なかった。報告者は、今年度も台湾での調査を10月に行ったが、野外での本種の幼虫の発生は顕著であるが、持参したフェロモントラップに捕獲される雄成虫は少ないことを確認した。こうした結果から、上述の3国に生息するハスモンヨトウは、フェロモンに対する感受性が日本で繁殖するものとは異なる地理的変異群であると推察された。一方、中国の中東部に設置したトラップでの雄成虫の発生消長は佐賀及び鹿児島での消長とかなり類似していた。また,梅雨時には沖縄と鹿児島で,さらに秋雨期には鹿児島と佐賀で,前線が停滞したり通過した時に一致して,同時に捕獲数の突発的な増加が認められた。こうした結果から、ハスモンヨトウは、降雨前線や台風に向かって吹き込む風によって、主に中国中東部から飛来してくることが示唆された。また,吊り下げ実験により,ハスモンヨトウ成虫は雌雄とも20時間にも及ぶ飛翔が可能であり,そのためのエネルギー源がトリアシルグリセロールであることを示し,この昆虫は生理的にも長距離の移動が可能な状態にあることを明らかにした。
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