研究概要 |
報告者らは、これまで佐賀と鹿児島に設置したフェロモントラップへの雄成虫の捕獲消長の比較から,ハルモンヨトウのかなりは台風到来時に海外から飛来してくると主張してきた。この研究では、さらに沖縄,石垣にもフェロモントラップを設置し日毎の雄成虫の捕獲を比較することにより,台風到来時ばかりでなく,鹿児島,沖縄,石垣では梅雨前線が停滞した時期の,佐賀と鹿児島では秋雨前線が停滞した時期の,いづれも降雨時に,突発的に,しかも同時に雄成虫の捕獲数が増えることを明らかにした。このことは,ハスモンヨトウは台風や降雨前線に関連した風によって日本に飛来してくることが強く示唆した。さらに,インドネシア、フィリッピン、台湾の各1カ所、さらに中国の3カ所にフェロモントラップによる雄成虫の捕獲調査をおこなった。その結果、フィリッピン、インドネシアではトラップに雄成虫はほとんど捕獲されず、台湾でも捕獲数は日本でのそれに比べてはるかに少ないという予想外の事実が得られた。報告者は、台湾での調査を2度行い、野外での本種の幼虫の発生は顕著であるが、持参したフェロモントラップに捕獲される雄成虫は少ないことを確認した。こうした結果から、上述の3国に生息するハスモンヨトウは、フェロモンに対する感受性が日本で繁殖するものとは異なる地理的変異群であると推察された。一方、中国の南東部に設置したトラップによる雄成虫の発生消長は佐賀及び鹿児島での消長とかなり類似していた。こうした事実から、ハスモンヨトウは主に中国南東部から飛来してくると推察された。一方,吊り下げ飛翔実験から,ハスモンヨトウ成虫は20時間にも及ぶ飛翔が可能であり,そのための飛翔エネルギー源はトリアシルグリセロールであることをことを支持する結果が得られ,この昆虫の長距離移動性は生理的にも裏付けられた。
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