研究概要 |
子のう菌の交配型遺伝子MAT-2に存在するDNA結合部位の高い保存性に基づく交配型遺伝子取得法(Arieら,1997)により、交配不完全性なFusarium oxysporumおよびAlternaria alternataから交配型遺伝子と考えられるそれぞれ一組の断片を取得した。これらはF.oxysporumで約4.6kbと3.8kb、A.alternataで約1.9kbと2.2kbで、それぞれ既知の交配型遺伝子に存在する保存配列α・boxあるいはHMG-boxを持ち、共通配列に挾まれて存在していた。このためそれぞれはidiomorphと考えられ、α-boxを含むものをMAT-1、HMG.boxを含むものをMAT-2とした。Aalternata数株およびF.oxysporum各分化型について染色体サザン解折とPCRを行った結果、供試した菌株はどれもMAT-1もしくはMAT-2の一方を保持し、同時に両方を持つものは見出されなかった。この結果を踏まえ、F.oxysporum各菌株の交配型(MAT-1またはMAT-2のをそれぞれプライマーFα1+Fα2、FHMG11+FHMG12を用いたPCRにより識別する手法を確立した。この識別法により世界各地由来のトマト萎凋病菌(F.oxysporumf.sp.lycopersici)の交配型を検定した結果、全株がMAT-1であった。一方、多くのF.oxysporum菌株のエンドポリガラクツロナーゼコード遺伝子の塩基配列を元に系統樹を描いたところ、その中ですべてのf.sp.lycopersici菌株はクラスターを形成した。以上のことから、トマト萎凋病菌は、トマトに対する病原性を獲得した後に、asexualな増殖を繰り返し、世界的に拡大したことが示唆された。 今後は、取得した交配型遺伝子について近縁で有性生殖能を持つ菌の交配型遺伝子と比較し、欠損や挿入などの遺伝子の構造の差の解析、ヘテロロガス発現等の方法で機能性の調査、両遺伝子の発現の調査を行い、交配型遺伝子が交配不完全性に関与している可能性について検討する。
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