研究概要 |
1.シンジュサンの飼育技術の確立:長野県産のシンジュサンの幼虫を,日長制御チャンバーにてヒマ生葉により飼育した。シンジュサンは,日長12L:12Dにおいて蛹休眠し,15L:9Dにおいては非休眠となった。2.雑種の妊性:シンジュサン雌にエリサン雄(ベトナム産)を交雑し次代を得た。Fl雑種は,正常に発育・化蛾し,何ら異常を認めなかった。Fl雑種とエリサンとの戻し交雑は,容易にでき,その次代にも異常は認められなかった。3.雑種の休眠性:Fl雑種の休眠性は,明らかに偏父的な傾向が認められた。すなわち,エリサンを父とするFlでは,12L:12Dで飼育した場合に,雌の大半が非休眠となり,雄の大半が休眠蛹になった。戻し交雑世代でも,蛹休眠が伴性遺伝子に支配されることが明らかであった。休眠性を支配する遺伝子は,おそらくZ染色体の上に座乗するものと推察される。Fl,BFlともに,長日条件の下では休眠蛹を生じることがなかった。4.幼虫体色および斑紋の遺伝:シンジュサンの幼虫体色は,緑色を呈する。BFl世代およびさらに後代での観察から,この緑色は,常染色体上の優性の単一遺伝子に支配されることを明らかにした。また,雑種を人工飼料で飼育すると緑色のかわりに青色の個体が出現し,緑色の発現には遺伝的な青色以外に生葉由来の黄色色素が必要であるらしい。また,シンジュサンの幼虫体表には胡麻状の斑点が多数存在する。この遺伝子も,常染色体上の単一の優性遺伝子に支配されることが分かった。4.繭色の遺伝:シンジュサンの繭は淡茶褐色を呈し,エリサンの繭は白色である。雑種においては,きわめて多様な色彩の繭色が出現し,繭色の遺伝様式がかなり複雑であることを感じさせた。種々の交雑による観察結果から,赤色色素を発現する遺伝子と,灰色の色素を発現する遺伝子の組み合わせによって多様な繭色を説明できそうである。
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