研究概要 |
カイコの分散行動に関するこれまでの研究結果から,孵化直後幼虫の暗中での分散行動には活発な行動を支配する劣性の主遺伝子が存在し,この遺伝子は老熟幼虫の分散行動とは無関係であると考えていた。しかしながら,孵化幼虫に関して4世代選抜育成を重ね,蛾区間における拡散係数の変異が小さくなった系統を用い,分散行動の活発な系統と分散行動の不活発な系統との交雑F_1雌に分散行動の活発な系統の雄を戻し交雑したBF_1区において,孵化直後幼虫の分散性の強い個体と弱い個体を繰り返し選抜し,それぞれの選抜区の老熟幼虫における拡散係数を調査した。結果は,分散性強個体選抜区の拡散係数の平均値は9.18,分散性弱個体選抜区で2.74となり.孵化幼虫における分散性に関する選抜が老熟幼虫の分散性に関係しており,孵化幼虫の分散性を支配する遺伝子は老熟幼虫の拡散性にも関与することが示唆された。さらに,それぞれの選抜区内で相互交雑を行った次代における孵化幼虫の拡散係数は分散性強個体選抜系で23.42,分散性弱個体選抜系で12.83であった。この結果は、BF_1世代において孵化幼虫の分散行動を活発にする劣性遺伝子をホモに持つ個体が分離し,それらが選抜によって区別されたことを示すものである。したがって.これまで不可能であった分散行動に関する遺伝子の解析が,本研究で用いた行動形質に関する分離モデルを用いることによって解析可能となり,さらに,現在開発されつつある分子的マーカーによる遺伝子解析を応用することによって分散行動に関する主遺伝子の同定が期待される。
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