本研究の目的は、昆虫体内で形成される昆虫寄生性微胞子虫の二型胞子(個体間伝播型胞子と体内伝播型胞子)のうち、混在する両者から一型胞子の単胞子のみを単離回収し、さらに単離胞子を発育の起点として、これを昆虫培養細胞に接種することで、クローン化した微胞子虫の作出・利用を目指すものである。 Vairimorpha属微胞子虫の発現する二型胞子(二核胞子と単核性の胞子集塊)について、まず各胞子発現の温度・宿主依存性を調べた結果、16℃区の家蚕において特異的に胞子集塊形成量が多いことが認められた。さらに回収した精製胞子液から胞子集塊の単離を試み、成功した。次に、Nosema属微胞子虫の体内伝播型胞子の生理的特性を調べた。昆虫培養細胞を利用したN.furnacalisの体内伝播型胞子の大量増殖ならびに胞子の回収精製を行った。精製した同型胞子液の昆虫培養細胞への無処理接種にも成功し、同型胞子がアルカリやイオンの刺激を特に必要とせず、自発的な孵化能力を有するなどの孵化特性を明らかにした。培養細胞内で増殖し、細胞外に遊離したN.furnacalisの体内伝播型胞子をマイクロマニピュレータ操作によって単胞子のみを摘出し、健全な昆虫培養細胞液中へ注入することで、接種を試みた。胞子が自発的孵化を生じることで、単離胞子を発育の起点とする本微胞子虫の増殖像が観察できた。N.bombycisでは体内伝播型胞子の孵化特性が異なるためか、同胞子由来のクローニングは不成立であったが、個体間伝播型胞子の導入によって、単胞子を起源とするクローン化した純系胞子株の確立に成功した。
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