研究概要 |
北海道の主要な土壌である多湿黒ボク土、淡色黒ボク土、褐色森林土,灰色台地土,沖積土を供試し、未耕地(森林)と耕地の土壌の有機物組成を比較した。主な検討項目としては、一般理化学性の他に、逐次抽出法による遊離型および結合型腐植,逐次加水分解による微生物由来糖成分と植物体由来糖成分,酸化銅アルカリ分解によるリグニン由来のフェノール性化合物,易分解性窒素成分等の定量を行った。また、森林の急激な伐採燃焼とプランテーションの開発が進行しているインドネシアスマトラ島の赤色酸性土壌地帯において採取した各種の土地利用下にある未耕地および耕地土壌を供試し、森林伐採とプランテーション農業が土壌の有機物組成に及ぼす影響を検討した。この結果、農耕地としての土地利用は温帯においても熱帯においても土壌中の腐植物質や糖成分の著しい消耗をもたらすことが明らかとなった。しかし、熱水抽出性成分によって代表されるような易分解性有機物の量は熱帯土壌と温帯土壌の間であまり変わらなかった。熱帯土壌では易分解性有機物は落葉落枝などのような植物残渣から直接供給される部分が多いものと考えられるが、土壌中の有機物の蓄積量が少ないため、植生が人為的に失われると、易分解性有機物は早急に枯渇するものと考えられる。土壌侵食防止のためのコ一ヒー樹間への雑草の植栽は土壌侵食の防止ばかりでなく、土壌中の有機物の維持効果が著しく大きかった。また、コーヒーと銀ネムの混植のようなアグロフォレストリー栽培法は土壌への易分解性有機物を増大させた。温帯においても、耕地における土壌有機物消耗の実態は、淡色黒ボク土や多湿黒ボク土の例にも見られたように深刻である。このような土壌有機物の消耗は、安定で持続的な農業生産を維持するための重大な障壁となるので、耕地での有機物レベルを維持するような農法の開発と実践が求められる。
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