オキルギ林の潮間帯に棲息するオキナワアナジャコ(Thalassin aanomala.タラシナ科)は、強還元性の下層土を土中深くから持ち揚げて高さ0.3〜2m程の円錐台のシャコ塚を活発に造成する。本研究では、オキナワアナジャコの営巣活動が沖縄県西表島のマングローブ土壌における塩類(Na、Mg、Ca、K)の動態、雑草植生 ・ 遷移反びNとS循環に関与する土壌微生物相に及ぼす影響を検討した。 オキナワアナジャコが土中深くからシャコ塚頂上に泥団子として持ち揚げる新鮮な下層土は、黄鉄鉱(FeS2)を多量に含み、pH6.5〜7.0のほぼ中性の土壌反応を示す。その後、新鮮な泥土に含まれる黄鉄鉱は、速やかに酸化され、生成される硫酸により土壌のpHは約2の強酸性になる。古いシャコ塚の表層には、黄鉄鉱の風化生成物であり、特徴的な淡黄色(マンセル表色法:2.5Y6/8〜8/8)であるジャロサイトKFe3(SO4)2(OH)2がしばしば認められる。 強酸性のシャコ塚にはシダ植物のミミモチシダ、カニクサやテツオシダが特異的に生育する。シャコ塚は陸側に向かうにつれサイズが小さくなり、そのpHが僅かに上昇するにつれハイキビに変遷する。反応が微酸性であり、シャコ塚に隣接する土壌ではハイキビが主な植生であり、陸側に向かってそのpHが、シャコ塚とは逆に、僅かに低下するに連れて、塚周辺の雑草植生はタイワンアイアシに変化した。 硫酸生成に伴ってシャコ塚土壌から塩類、特にカリイオン、の溶脱が促進された。また、塚土壌の酸性化に伴って、窒素循環に関与する脱窒菌、窒素固定菌の菌数は減少した。特に、硫酸酸性化の影響は、アンモニア酸化細菌と亜硝酸酸化細菌の硝化菌数を著しく減少させた。
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