マングローブのオヒルギ林が生育できる潮間帯に生育するオキナワアナジャコ(Thalassina anomala)は、強還元性の下層土を地中深くから持ち揚げて高さ0.3〜2m程度の円錐台のシャコ塚を活発に造成する。平成11年度は、その黄鉄鉱(FeS_2)の酸化生成物の硫酸により起こされる土壌の強酸性化が、マングローブ林の硫黄循環に携わる土壌微生物相に及ぼす影響を検討した。1)シャコ塚上の新鮮な泥土壌には、泥が強還元的であるにも関わらず、既に中性硫黄酸化細菌(Thiobacillus thioparus、T.neapolitanusなど)ばかりでなく、酸性硫黄酸化細菌(T.thiooxidans、T.ferrooxidansなど)の菌数もかなり高かった。黄鉄鉱FeS_2の硫酸H_2SO_4への酸化反応は、まず、中性のpH生育領域にある中性硫黄酸化細菌により開始され、硫酸生成によりpHは4程度に低くなると、次に、酸性硫黄酸化細菌による酸化反応が優勢になる。これらから、シャコ塚における黄鉄鉱の速やかな酸化は、従来の説である非生物的な空気酸化反応よりもむしろ、まず中性硫黄酸化細菌により黄鉄鉱(FeS_2)の部分的な酸化反応が開始され、産生された硫酸により土壌のpHが低くなると、次に酸性硫黄酸化細菌による酸化反応が継続するために、シャコ塚土壌の黄鉄鉱FeS_2の硫酸H_2SO_4への速やかな酸化反応が可能であると示唆された。2)また、泥土壌の乾燥と硫黄酸性化は、中性硫酸酸化菌とFe^<2+>を基質とするT.ferrooxidansの菌数と活性を著しく減少するが、T.thiooxidansとFeSで被覆される硫酸還元菌への影響は小さい。これらの原因究明について、各微生物の土壌団粒構造における棲みかの違いによる外部からの生育環境へのImpactの受け易さと基質の供給量が関連することが示唆された。以上の調査・研究の結果を総括し、マングローブ林に棲むオキナワアナジャコの営巣活動によって構築されるシャコ塚が植生・土壌環境に及ぼす影響を総合的に考察した。
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