キチナーゼによる結晶性キチンの分解メカニズムを解明することを最終的な目的として、不要性キチン分解活性が高いBacillus circulans WL-12のキチナーゼA1のドメインの構造と機能に関する研究をおこなった。 (1)キチナーゼA1の活性ドメイン(CatD)の立体構造と触媒反応機構 CatDの発現系を構築し、X線結晶構造解析により立体構造を明らかにした。CatDは(β/α)8バレルと二つのβ構造領域から構成され、β構造領域は基質が結合する深い溝をばれる上部に形成していた。また本酵素が(-5)〜(+2)のサブサイトを持ち基質の還元末端側から分解することが示唆された。さらに、サブサイト(-1)位に結合した基質や阻害剤の構造と部位特異的変異やアフィニティーラベルの実験から、本酵素の触媒反応機構がSubstrate-assisted catalysisであることが明らかとなった。 (2)キチナーゼA1によるキチン分解の方向性 (GlcNAc)6分解の解析から、本酵素は(-2)〜(+4)のサブサイトを持ち、オリゴ糖を非還元末端側から分解すると推測された。一方、β-キチン微小繊維は還元末端側から分解された。これらの結果から、オリゴ糖と結晶性キチンで分解の方向性が異なる可能性が示唆された。 (3)キチン吸着ドメイン(ChBD)、タイプIII様ドメイン(FnIII_<R2>)の性質ならびに立体構造 ChBD_<ChiA1>及びFnIII_<R2>の発現系を構築し、その性質と立体構造の解析を試みた。ChBD_<ChiA1>は不溶性のキチンにのみ吸着し、水溶性基質と全く相互作用しなかった。また、ChBD_<ChiA1>には直線上に並んだ露出した芳香族アミノ酸が存在しなかった。さらにChBD_<ChiA1>は結晶性領域の効率的な分解に重要であることが明らかとなった。一方、FnIII_<R2>は不溶性キチンとまったく相互作用しないことが明らかとなった。
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