研究概要 |
本研究は分裂酵母のストレス応答とそれにかかわるシグナル伝達の分子機構を解明しようとするものである。本研究を進めるにあたり、我々は既に分裂酵母の浸透圧感受性変異株の取得と解析を行い、多くの遺伝子を同定した。更に分裂酵母の浸透圧ストレス応答遺伝子gpd1をクローニングし、gpd1遺伝子のプロモーター構造を明らかにし、その発言がWis1-Sty1MAPキナーゼカスケードに支配されていることを示した。またこのカスケードが多様なストレス応答に関与していることを示唆した。今回我々は(1)このカスケードの下流で働く転写因子Atf1の欠損株がカルシューム感受性を示すことを見い出した。(2)Wis1-Sty1MAPキナーゼと関連して働く転写因子群(Atf1,Atf21,Atf31)を取得、解析した。また(3)分裂酵母から新規な転写転写因子をコードする遺伝子(Prr1)をクローン化して、バクテリア型His-Aspリン酸リレーシグナル伝達ドメインを持つことなどの構造的特徴を明らかにした。(4)Prr1欠損変異株を作成し、Prr1がカタラーゼ遺伝子(Ctt1)の発現を制御するなど酸化ストレス応答に重要である事を明らかにした。この過程でストレス応答転写因子であるPrr1欠失変異株が接合・減数分裂不能の表原型を示すことを最近になって新たに見い出した。このことから、Prr1が分裂酵母における多様なストレス応答(酸化ストレスや栄養飢餓)に関わるユニークな因子であるとの着想を得た。そこで、Prr1の機能やそれに関わるシグナル伝達機構を解析することで、細胞周期・減数分裂を制御するシグナル伝達機構の解析という普遍的課題に直接かつ独自にアプローチ出来ると考えられる。また、真核生物に於けるHis-Aspリン酸リレーシグナル伝達機構に関するユニークな研究が展開できる可能性も同時に開けたと考えられ、これら二つの視点を有機的に交えた研究を、今後行う予定である。
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