細菌胞子発芽機構の解明に向けて、発芽の主要な生化学的事象である細菌胞子ペプチドグリカン(胞子コルテックス)分解をつかさどるコルテックス分解酵素の発現時期、活性化機構および胞子内局在部位を明らかにした。C.ρerfringens胞子のコルテックス分解酵素SleCは、プレプロ領域を持つ4つのドメイン構造からなる前駆体として胞子形成III期に合成され、胞子形成IV期からVI期にかけてプレプロ体のN-末端プレ領域およびC-末端プロ領域が順次にプロセシングされ、N-末端プロ領域をもつ不活性前駆体として休眠胞子の胞子殻とコルテックス層との間隙に存在することが示された。さらに、発芽時に発芽特異的プロテアーゼによりN-末端プロ領域が切断されて活性化される酵素であることが判明した。このプロセシングを担う発芽特異的プロテアーゼはセリンを活性中心とするスブチリシン様酵素で界面活性剤によりのみ抽出可能な酵素であった。栄養細胞および休眠胞子からその活性を検出することは出来なかった。一方、B.subtilisやB.cereusのコルテックス分解酵素SleBは分泌型シグナル配列をもつ前駆体として胞子形成III期に前胞子内で生合成され、分泌シグナルによって内膜を通過し、最終的にコルテックス層外縁部あるいはコルテックスをとりまく外膜のどちらかに成熟型酵素として局在することを明らかにした。すなわち、本酵素はSleCとは異なりプロセシング以外の機構により活性発現が制御されていることを意味している。この様にSleCとSleBの局在部位ならびに酵素化学的性質は類似しているにもかかわらず、発芽機構は種特異的であることを示唆している。 現在、SleB活性の制御機構およびSleCのプレ、プロ領域の役割について検討中である。
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