耐久型細胞である細菌胞子から栄養細胞への分化時に見られる胞子の発芽過程にはそれを誘起する情報をセンサーする機構と将来、栄養細胞となる胞子コアの代謝系を活性化するための機構が存在する。代謝系の活性化には胞子コアをとりまく胞子ペプチドグリカン層(コルテックス層)の破壊が必須であり、それを担う胞子ペプチドグリカン分解酵素は胞子発芽過程で重要な役割を演じている。本研究ではこれら酵素の活性化機構ならびに発芽装置の構築のメカニズムの解明を主眼として発芽過程を分子論的に明らかにすることを目的とし、以下の成果を得た。(1)新規なB.cereusペプチドグリカン分解酵素(SleL)はC.perfringensに見いだされたSleMと同様、コルテックス層の架橋部位が分解されたペプチドグリカンのみに作用したが、SleMがムラミターゼとして機能するのにたいしてN-アセチルグルコサミニダーゼ作用を有していた。(2)B.cereus sleBの転写はシグマ因子sigma Gに制御され、SleBは胞子形成期第III期にフォアスポア内で発現する。一方、C.Perfringens SleCとSleMは胞子形成期第III期に母細胞側で発現する。(3)B.cereus SleBおよびSleL、C.perfringens SleCおよびSleMは成熟胞子のコルテックス層外縁部に局在した。これらの結果は発芽装置の構築機構には明らかに種特異性が存在することを示している。(4)C.perfringens SleCの活性化機構を明らかにし、SleCのN-末端プレ領域が酵素の構造安定化を担う分子内シャペロンとして機能することを示した。(5)C.Perfringens SleCの活性化に関わるセリンプロテアーゼ群CspA、CspB、CspCを同定し、それらの性質を解明し、かつ機能の関連した遺伝子sleCとcspA、BおよびCがクラスターを形成していることを明らかにした。
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