ホタルのルシフェラーゼは、ATP、ルシフェリン、酸素を基質として利用し、黄緑色の光を放出する反応を触媒している。この発光現象は、分子生物学、細胞生物学の研究や臨床検査への応用といった実用的な用途にも用いられている。しかしこの発光反応メカニズムの、原子レベルにおける詳細は明らかになっていない。そこで本研究ではゲンジボタルのルシフェラーゼの立体構造を決定し、その構造から発光反応機構の詳細を明らかにしていくことを目的とした。これまでに西アメリカ産のルシフェラーゼの立体構造は明らかになっているもののリガンドが結合しておらず、活性に重要なアミノ酸残基の同定はできていない。そこで、まずリガンドであるATPとの複合体結晶をポリエチレングリコール4000を沈殿剤として用いることで作成することに成功した。またこのとき1アミノ酸残基置換により熱安定化されたThr217Ile変異体を用いることで良質の結晶が得られた。この結晶の立体構造をリガンドの結合していない西アメリカ産のルシフェラーゼを用いて分子置換法により決定したところ、2つあるドメインの内の1つが90度回転しているということが判明した。またリガンドであるATPのうちAMPの部分の構造を決定することができ、反応の第1段階目の反応点であるα位のリン酸の求電子性の増加に対して重要なアミノ酸残基はHis247とLys517であることが判明した。熱安定化に関して重要なIle217はその周りが疎水性残基に覆われており、親水性残基(Thr)から疎水性残基(Ile)へのアミノ酸変異が、疎水性相互作用の増加をもたらし、熱安定化酵素が得られたと推測された。
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