アスコルビン酸酸化酵素(AAO)は、高等植物、特にカボチャやキュウリなどのウリ科植物に多く認められる銅酵素で、アスコルビン酸を分子状酸素を用いてモノデヒドロアスコルビン酸へと酸化する反応を触媒する。本酵素は、植物由来の酵素では数少ない有用酵素の一つであるが、植物における生理機能については、未だ不明である。 そこで、本研究では、AAOの生理機能に着目した。タバコ懸濁培養細胞を、細胞分裂阻害剤を用いて同調化させ、さらには、ホルモン処理により細胞伸長のみを誘導させ、タバコ培養細胞の細胞分裂時と細胞伸長時におけるAAOの発現変動を調べた。その結果、同調化して活発に分裂しているタバコ培養細胞において、AAOの発現はM期からG1期への移行にともない減少した。一方、タバコ細胞の伸長培養時において、AAOの発現は、細胞の伸長が始まる直前に急激に増加した。また、AAOの発現は細胞分裂時より、細胞伸長時に高いことが示された。これらのことから、AAOは細胞伸長に関与している可能性が示された。 さらに、タバコ培養細胞にカボチャのAAOcDNAを導入し、AAOを過剰発現した形質転換タバコ培養細胞を作成した。野生型タバコ培養細胞と形質転換タバコ培養細胞をそのまま伸長培養し、細胞の形態を観察した結果、両者の間に有意な相違は認められなかった。一方、野生型タバコ培養細胞と形質転換タバコ培養細胞を、それぞれプロトプラスト化し、伸長培養させた結果、形質転換タバコ培養細胞の方は培養1日以降から膨張し、培養3日目にはそのプロトプラストの直径は、野生型のものの約2.5倍となった。すなわち、AAOを過剰発現した形質転換タバコ培養細胞のプロトプラストは、伸長が始まる前に一過的に膨張することを見いだした。これらのことから、AAOが植物の細胞伸長に重要な役割を果たしていることが明らかとなった。
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