1. L-LDH群における研究 L.pentosusの非アロステリック型L-LDHについては、その立体構造モデルの精密化作業を終え、高精度、高分解能の本酵素の立体構造モデルの構築に成功した。一方、L.caseiのアロステリックL-LDHに関しては、非リガンド結合型の酵素の結晶について測定を行い、2.4ÅまでのX線データの収集をほぼ終了した。現在はそのデータを用いた構造の解析作業に取りかかっている。L.caseiL-LDHについてはアミノ酸置換による解析も進めている。まず、既知のアロステリックL-LDHにおいて、フルクトース1、6-二リン酸(FBP)による活性調節に必須な調節部位上のAr g173残基に注目して置換を導入した。本酵素の場合は既知のL-LDHの場合と異なり、Ar g173残基の置換は、中性付近におけるFBP感受性にやや低下をもたらしたものの、FBPによる活性調節自体に本質的な変化を与えなかった。このことは、FBPによる調節機構自体においても、本酵素は他の既知のLDHとかなり異なるものを備えていることを示している。また、本酵素の基質によるホモトロピックな調節特性を解析するための一環として、本酵素の基質特異性をリンゴ酸脱水素酵素(MDH)に変換することも試みた。しかし、意外なことに、本酵素は本来的にそのLDH活性と同等な高いMDH活性も備えていることが明らかとなり、調節特性のみならず触媒特性においても既知のL-LDHと大きく異なることが示された。 2. D-ヒドロキシ酸脱水素酵素群における研究 E.faecalis菌株から、2種のD-マンデル酸脱水素酵素(D-MDH)の精製に成功した。これら2種の精製酵素は、pH依存性などの酵素学的性質の相違のみならず、SDSポリアクリルアミド電気泳動上で異なった移動度を示すなど、蛋白質の分子量等にも相違を示した。一方、既知のD-ヒドロキシ酸脱水素酵素群にみられる保存アミノ酸配列領域をもとにDNAプライマーを設計合成し、E.faecalis染色体DNAにPCRを試みたところ、D-MDH遺伝子の一部に相当すると思われる長さをもつDNA断片の増幅が確認された。一方、Paracoccus 12-A株の蟻酸脱水素酵素においても同様な実験を試みた結果、やはり相当長のDNA断片の特異的な増幅が確認された。現在、これらのPCR産物を用いてそれぞれの遺伝子のクローニングを試みつつある。
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