研究概要 |
本研究は、酵素の人為的「低温適応化」を目的とし、主としてプロテアーゼ(サチライシン)をモデルに進化工学的手法により、これまでに低温下で天然型の活性に優る進化型酵素を多数取得してきた。それら進化型サチライシンのうち、10℃において野生型の2倍の活性を獲得したm-63変異体の変異遺伝子を解析した結果、275アミノ酸残基のN末端から72,92,131番目の変異点中、131番目のアミノ稜であるGlyからAspへの置換がもっとも低温適応化に寄与していることが明らかになった。そこで本年度は、この残基に着目し、同部位におけるランダムアミノ酸置換をPCR法を用いて行い、さらなる低温高活性体が取得できるかどうか、タンパク質工学的にテストすることにした。その結果、GlyがPheに置換されたとき10゚Cにおける活性が最大になり、野生型の2.5倍を記録した。3つの変異点中の他の2点から切り離したこの変異点のみをもつシングル変異体での置換実験で、取得された19種の変異体(G131X)の活性測定の結果は、F(2.0),M,R(1.7),H,W(1.5)N,S(1.4),A,K,Y(1.3),D,E,I,T,P,Q(1.2),L,V(1.1)であった(かっこの中の数字は野生型を1としたときの相対活性を示す)。この結果から、131番目のアミノ酸残基はその側鎖の大きさが大きいほど、また分極率が高いほど、比活性が高い傾向が見られた。この部位は基質結合部位の近傍に位置していることから、アミノ酸置換により立体構造が変化し、低温下での基質結合に影響を与えていると推定される。同時に、この部位はCa結合部位であり構造安定化に関与していることから、Ca結合能に影響し柔軟性を変化させていると考えられる。また他の変異点の中に、シングル変異体にすると活性低下の方向に働くにもかかわらず、3点共存すると最高活性をもたらすものが存在することから、低温適応化には正と負からなる複数の変異点の組み合わせによって実現する場合のあることが分かった。
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