脳卒中治療薬の開発を目的に新規AMPA/カイニン酸アンタゴニストのスクリーニングにおいて、Eupenicillium sheariiと同定したカビから単離した新規グルタミン酸レセプターアンタゴニストkaitocephalinは、細胞毒性を全く示すことなく、従来のアンタゴニストと同等、あるいはそれ以上強い活性でカイニン酸およびAMPAによる神経細胞死を抑制した。 本化合物はラット初代分散培養海馬神経細胞系においてAMPAによるカルシウム流入は阻害するが、カイニン酸によるカルシウム流入は阻害できないと言う興味ある結果が得られている。分散培養海馬神経細胞系では、どの神経細胞が、どのアゴニストに応答しカルシウム流入が誘導されるのか、またそれらのうちどの神経細胞が死滅するのかは事実上観察することは不可能である。 そこで、我々はラット海馬スライスを用いて、kaitocephalinの生物活性について検討した。海馬スライスは歯状回、CA3およびCA1領域と呼ばれる主に3つの部位から構成されている。これらの領域は部位選択的に各グルタミン酸アゴニストに対する応答性が異なり、CA3領域はAMPA/カイニン酸に、CA1領域は部位選択的に各グルタミン酸アゴニストに対する応答性が異なり、CA3領域はAMPA/カイニン酸に、CA1領域はNMDAにそれぞれ選択的に応答する。この海馬スライスを用いてkaitocephalinの各アゴニストに対する作用を検討したところ、kaitocephalinはカイニン酸、AMPAおよびNMDA毒性より神経細胞を保護した。さらに各アゴニストによるカルシウム流入に対する阻害効果を検討したところ、AMPAおよびNMDAによるカルシウム流入は抑制したが、カイニン酸によるカルシウム流入は抑制することができないことを明らかにした。 この結果は神経生理学上、極めて重要な知見であり、新たな神経細胞死のメカニズムを提唱するものであった。
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