過去の研究において、休眠ホルモンのC末端トリペプチドアミド(PRL-NH_2)が活性発現に必須な最小構造であることを明らかにしていた。本研究では、その各部分側鎖官能基が活性発現に果たす役割を解析して強活性物質を創製すると共に、それらの投与法を改良し、一層強い活性を発現させることを期待した。 その結果、1)C末端部はアンモニアアミドであることが活性発現に必須であり、他のアミンとのアミドでは活性が完全に消失すること、2)C末端から2残基目のアルギニン側鎖カチオンも必須であり、これをリシンで置き換えることは可能だが、このカチオンを消去するような修飾を施すと活性は完全に消失すること、3)活性発現最小単位のN末端を脂溶性カルボン酸で修飾すると活性が著しく増加すること、4)最も顕著な活性増強をもたらす修飾はパルミチン酸あるいはステアリン酸によるアシル化であり、得られた誘導体の活性発現閾値低下作用は限定的であるものの、産下する休眠卵の割合の増加が顕著であり、現在の生物検定系でも、休眠卵の割合が産下卵中の70%以上となること、5)おそらくこの活性増強はこれら誘導体の体内分解に対する抵抗に由来していること、等を明らかにすることができ、今後、一層強活性の物質を分子設計する指標を得ることができた。一方、投薬法改良に向けて、市販の蛋白質や多糖などの添加物を共存させて生物検定を試みたが、好ましい結果は得られなかった。しかし、今回の研究過程で解明したカイコ頭部とエビ殻中の新規親油性蛋白質は、休眠ホルモンの活性を著しく増強できることを明らかにできた。現時点では誘導体に対するこれら蛋白質の活性増強能の有無は不明だが、このような蛋白質の発見は新投薬法開発の糸口を与えるものである。 以上のようにして、本研究を実施することにより、休眠ホルモンの活性発現に必要な官能基を特定し、活性を強める修飾法を明らかにすると共に、産下休眠卵が70%にも達する強い活性の誘導体を創製できた。さらに、節足動物表皮から休眠ホルモン活性増強化性を持つ新規親油性蛋白質を単離構造解明できたことから、それらを利用する新投薬法の開発に道を開くことができた。
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