多彩な花色のほとんどを担う花色素アントシアニンは、in vitroでリトマスのようにpHにより連続的に赤から青色まで色が変化するため、花色変異の機構として細胞のpH変化が推定できる。申請者らは、西洋アサガオがツボミでは赤紫色で開花に伴い空色へと変化し、萎むと再び赤紫色にもどる現象に着目し、細胞内微小pH電極により生きた花弁液胞のpHを直接精密測定して、これが液胞pHの上昇によるためであることを解明した。液胞pHが、開花にともない上昇する現象は、花色変異の機構解明のみならず、植物生理学上も極めて興味深いものである。本研究は、アサガオ花弁のpH上昇機構の解明を目的に行った。 1. 細胞内微小カリウム電極の作成 pH上昇が無機イオン濃度の変化によるものではないかと考え、カリウム応答性電極の作成を検討し、液胞内カリウムイオン濃度の測定を試みた。10〜200mM濃度の標準カリウムに応答する電極が作成できた。 2. 液胞膜上のプロトンポンプ活性の測定 液胞pHの制御に関与する膜上のプロトン輸送タンパクの生化学的性質を調べた。赤紫色ツボミ花弁および空色開花花弁より、それぞれ酵素処理によりプロトプラストを調製して液胞膜を単離しV-ATPaseとV-PPaseのプロトン輸送能および加水分解活性を測定した。開花のステージにより両酵素の活性には、特異な変化は認められなかった。花弁細胞内におけるこれらのポンプタンパクの存在場所を免疫電顕により観察し、いずれも、液胞膜上に存在が確認できた。
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