本研究では、脂肪球膜(MFGM)糖タンパク質の生理機能を明らかにすることを最終目標とし、これらの糖タンパク質の構造解析、小腸冊子縁膜との相互作用、生合成、翻訳後修飾、など多方面から総合的に解析し、以下の成果を得た。(1)小腸冊子縁膜との相互作用:ウシ乳脂肪球膜タンパク質を非還元、非加熱条件で処理した後にSDS-PAGE、およびPVDF膜へ転写し、マウスおよびラットの小腸冊子縁膜と反応させ、冊子縁膜のアルカリフォスファターゼの活性染色により相互作用する分子を探索した結果、既知成分のMFG-E8およびブチロフィリンを含む数種のバンドが弱く染色された。調製した冊子縁膜のロットによって反応性が検出されない場合もあり、さらに測定系を改良して追試するが必要である。(2)MFGM糖タンパク質の糖鎖とその修飾酵素:MFGM糖タンパク質と小腸上皮との相互作用における糖鎖役割を解明するために、糖タンパク質糖鎖の合成に関与する糖転移酵素、特にガラクトース転移酵素について研究した。ガラクトース転移酵素の高感度活性測定系を新たに確立して乳汁中での自発的ガラクトース転移反応を発見し、MFGM糖タンパク質がその標的基質となることを示唆した。(3)MFGM糖タンパク質の生合成とその制御機構:乳腺細胞におけるMFGM糖タンパク質の発現様式を解析し、高脂肪食により脂質の生合成が低下してもMFGM糖タンパク質の合成はほとんど変化しないことを明らかにした。また、MFG-E8に対して泌乳期特異的にO-型糖鎖付加ドメインが付与されることを発見した。さらにMFG-E8は精子頭部にも発現することを明らかにした。また、MFGM糖タンパク質の発現制御に関与すると推定されるシグナル分子の乳腺での発現変動や作用機構について解析し、乳腺特異的なプロテインフォスファターゼによる負の制御の可能性を示唆した。
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