研究概要 |
各種食品廃棄物はセルロース繊維を多く含むことにより保水性が高く、そのろ過や脱水は非常に困難である。家藤ら1)は、セルロース系固形物に対し凝集促進性を有するGeotrichum属酵母M111株を脱水促進剤として用いた焼酎蒸留排液処理について検討した。このM111株のセルロース吸着能は、SDS処理、プロテアーゼ処理により菌体の細胞外壁蛋白質が関与しているものと推察されているが、この菌体を用いた脱水促進性機構、定量的モデル化が殆どなされていないのが現状である。そこで本研究では、細胞外壁分子認識素子蛋白質の固液分離プロセスへの応用のための工学的基礎研究として、M111株細胞外壁セルロース結合蛋白質含有菌体の吸着特性・ろ過促進機能を検討し、吸着凝集活性と脱水促進効果の関係をモデル化することを目的にM111菌体を用いた圧搾脱水実験を実施した。M111株のセルロース凝集活性の温度依存性を検討した。菌体を所定時間50〜75℃の温度に保持した後、2%セルロース溶液を用いて凝集活性を測定した結果、50℃については数時間後も凝集活性の低下は見られなかったが、60℃以上では凝集活性の低下が確認され、70℃,75℃では200minまでに完全に失活した。このときの失活速度を一次反応近似すると、失活の活性化エネルギーE=213kJ/molが求められた。また凝集活性はドリゼラーゼ(多糖分解酵素)、プロナーゼ-E処理により消失した。しかし、一度セルロースに吸着した菌体をプロナーゼ-E処理しても失活しなかった。M111株のセルロース凝集活性に対する至適pHはpH 4〜5、至適温度50°C以下であった。これは、セルロースに吸着するセルラーゼであるTrichoderma reeseiのエンドグルカナーゼと同じ範囲にあり、M111株にもこれらのセルロースに吸着特性を持つ表層タンパク質があるものと考えられる。セルロース粉末を20mMクエン酸緩衝液(pH5)を用いて0〜3%に希釈し、M111菌体濃度0.3,0.7,1.3×107cells/mlで実験した。これよりM111株のセルロース結合定数K=0.3%が求められた。 M111株菌体添加による芋焼酎蒸留排液の脱水促進効果を線形粘弾性圧搾モデルにより解析した。これは菌体と焼酎蒸留排液中のセルロースが結合することにより空隙ができ、脱水が促進されたためと考えられる。脱水期間を、自由水、セルロース空隙間、セルロース吸着水の3段階に分けて解析を実施した。セルロース空隙間の脱水を表す2段階の脱水期間において、菌体濃度0と1.0×108cells/ml-shochuとの圧搾定数が大きく変化していた。これは菌体と焼酎蒸留排液中のセルロースが結合することにより空隙ができ、脱水が促進されたためと考えられる。温度70℃,M111株菌体濃度1×108cells/ml-shochu添加が芋焼酎蒸留廃液の脱水促進に最も効果が現れ、脱水後の焼酎粕含水率を70%まで低下させることができた。以上、セルロースに対して凝集促進性を持つGeotrichum属酵母M111株は、セルロース凝集活性の至適pHは、4〜5で至適温度50℃以下であった。この菌体を用いた芋焼酎蒸留廃液の脱水促進効果は、セルロースに菌体が吸着し芋焼酎セルロース間に空隙を広げることによると考えられた。
|