森林生態系には様々な種類の有機酸が存在し、生態系内の物質循環や植物生理において重要な役割を果たしている。森林生態系の有機酸の起源は大きく二つに分けることができる。植物や動物の遺骸の分解過程において生成したり、樹体から溶出したりする生物起源のものと、大気汚染物質のオゾンや過酸化水素のような酸化性ガスと、生物起源あるいは人為起源の有機性ガスとの反応で生成すると考えられる人為起源のものとである。有機酸の森林生態系における動態は、土壌中の有機物分解過程で生成する腐植酸を代表的物質として取り扱われていることが多く、低分子有機酸を含む様々な有機酸の組成や量、生成メカニズムなどはまだよく把握されていない。 本年度は、樹木根から分泌される有機酸と樹幹から溶脱してくる有機酸について研究をおこなった。樹木根から分泌される有機酸については、クヌギを用いた水耕栽培により、Al処理、Ca欠乏、P欠乏等のストレスが根からの有機酸分泌にどのような影響を与えるかを調べた。その結果、有機酸分泌に影響を与える因子は、Ca欠乏やP欠乏ではなく、Alの絶対濃度であることが示唆された。また、Alの存在によって分泌が抑制される有機酸(αケトグルタル酸)と、分泌が促進される有機酸(リンゴ酸、クエン酸)があることがわかった。この分泌が促進される有機酸はNとキレートを形成し、Alを無毒化する作用があることが推察される。 樹幹から溶脱する有機酸については、ヒノキの樹幹流中の有機物についてHPLCによる分析をおこttつた。ODSカラムでグラディエント溶離をおこなったが、解離型有機酸と硝酸のピークが重なり、解離している有機酸の定量が困難であり、更なる検討が必要である。
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