研究概要 |
本研究の目的は、森林生態系内に存在する有機酸の中で、ヒノキ樹幹流に含まれる有機酸および樹木根から分泌される有機酸に焦点を当て、特にアルミニウムの無毒化という観点から、有機酸が森林生態系で果たす役割を解明することである。 ヒノキの降雨初期の樹幹流は1降雨に樹幹流に比べ、pHが低く、EC、無機イオン濃度、TOC濃度が高い傾向が見られた。無機イオンのみを測定した際のイオンバランスの崩れは、初期樹幹流の方が大きく、洗脱される物質の中に有機陰イオンを生じる物質が存在することが示唆された。実際に低分子有機酸を測定した結果では、針葉樹の樹幹流にも広葉樹の樹幹流にも、一般的に有機酸と呼ばれている低分子の有機酸はほとんど存在しないことが明らかになった。イオンバランスが崩れる原因は、例えば樹皮成分で水溶性であるフェノール性成分などの、高分子有機陰イオンではないかと示唆された。また、H2O2処理とHPLCによるグラジェント溶離により、樹幹流中には多種多様な有機成分が存在することが明らかになった。今回、樹幹流中の有機成分の金属キレート能力は評価することはできなかったが、樹皮成分として含まれるフェノール性成分などの高分子有機酸が存在することが示唆されたため、樹幹流中の有機成分のキレート能は期待できるものと考えられる。 次にクヌギ苗を用いたポット実験において、Al処理した全ての区でコントロール区と比べ水耕溶液中のTOC濃度が低くなることが示された。Al処理開始後60日でコントロール区、P欠区,Ca欠区でほぼ同じ値だったであったことから、養分欠乏の影響ではなく、Alによって有機物分泌が抑えられたと考えられる。また、HPLCを用いた有機酸分析では32分のピークが全てのAl処理区で小さく、5mM Alを培養液中に添加したときクヌギはクエン酸、リンゴ酸のピークがみられた。これらから、クヌギ根から分泌される有機酸にはAlによって32分の有機酸の様に制御されるものと、クエン酸とリンゴ酸の様に促進されるものがあることが明らかとなった。
|