平成10年度の研究によって得られた新たな知見・成果は、以下のとおりである。 1. カエデ類などの広葉樹を餌木として、各種穿孔性昆虫を採集し、その成虫脱出消長・生存期間などの基本生態を調査した。この調査は次年度以降も継続する。また、養菌性キクイムシ類の数種については、各樹種に穿孔・形成した坑道および胞子貯蔵器官から共生菌の分離を行った。さらに、クビナガキバチ類の一種において、体内に菌類が貯蔵されていること、その貯蔵器官が新しいタイプのものであることを発見した(論文投稿中)。この共生菌の分離・培養試験も実施した。 アベマキ・コナラの堅果に穿孔する昆虫の種構成と生態特性を調査した。とくに、主要種の羽化脱出パターンの違いを明らかにした(論文印刷中)。 2. 1.で検出されたキクイムシ共生菌に対する各キクイムシ種の依存度を、人工飼育による生存率、繁殖成功度などの違いとして評価した。とくに、他種キクイムシの共生菌を利用できることを見出した。この成果は、第6回ヨーロッパ国際昆虫学会(進化・分類セクション:キクイムシ科およびナガキクイムシ科の分類に関するワークショップ、開催国:チェコ共和国)で発表した(論文掲載)。また、この際に世界のキクイムシ研究者から受けた最新のレビューを基に、総説を発表した(論文掲載)。 生息場所の温度・湿度などの環境条件の分析・測定、これらの諸要因を調整した昆虫の飼育あるいは共生菌の培養実験は、次年度に行う予定である。 3. 1.の養菌性キクイムシ類やクビナガキバチ類に関する調査・実験を、5地域(岩手、福井、愛知、三重、島根の個体群で比較した。この同種地域個体群の比較調査は、次年度以降も継続する。
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