本研究における成果の概要は、以下のようにまとめられる。 1.カエデ類などの広葉樹を餌木として、各種穿孔性昆虫を採集し、脱出消長、生存期間、穿孔様式などの基本生態を継続調査した。その結果を、5地域(岩手、福井、愛知、三重、島根)の個体群で比較した。 2.クビナガキバチ類の一種において、体内に菌類と粘質物質が貯蔵されていること、その貯蔵器官が新しいタイプのものであることを発見した(Kajimura 2000)。この共生菌の分離・培養試験も実施した。 3.アベマキおよびコナラの堅果に穿孔する昆虫の種構成と生態特性を調査した。とくに、種構成と堅果の落下パターン(Fukumoto and Kajimura 1999)や主要種の羽化脱出パターンの違いを明らかにした(福本・梶村 1999)。また、昆虫類が堅果に穿孔する時期を野外操作実験によって解明し、その種間あるいは種内競争について考察した(Fukumoto and Kajimura 2001)。落下堅果の数を内部状態別にカウントし、これまでの結果と合わせて、堅果の生産量に対する昆虫類の反応を検討した(福本・梶村 2000)。また、逆に、昆虫類による堅果食害の影響を種子発芽実験によって確かめた(Fukumoto and Kajimura 2000)。 4.養菌性キクイムシ類の数種について、各穿孔樹種に形成された坑道および胞子貯蔵器官から共生菌の分離を行った。また、温度や湿度などの諸要因を調整した共生菌の培養実験を行った。その結果を参考にして人工飼料の開発に成功し、養菌性キクイムシの生育期間を推定した(水野・梶村 2000)。この生育期間推定法を用いて、キクイムシの温度反応を調査した。検出されたキクイムシ共生菌に対する各キクイムシ種の依存度を、人工飼育による生存率、繁殖成功度などの違いとして評価した。とくに、他種キクイムシの共生菌を利用できることを見出した。この成果は、第6回ヨーロッパ国際昆虫学会で発表した(Kajimura 1998)。また、この際に世界のキクイムシ研究者から受けた最新のレビューを基に、総説を発表した(梶村 1998)。本研究の成果と展望を総括した(梶村 2000))。
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