この研究では林地と田畑地域より構成される空間を土砂災害からのバッファーゾーンとして位置づけている。これは100年に一度程度の頻度で人間生活に影響を持ってくる自然の猛威に対し、その存在そのものが防災空間として機能を持つに至るという観点に立っている。この自然の猛威にさらされていない期間は生産の場として、あるいは良好な環境・景観を提供する場である。これらの場の持つ機能についてこれを定量化すべく、一昨年度は棚田に水を供給するために渓流に施工される頭首工の機能を砂防学的な観点から分析した。昨年度は棚田を構成する石材の材料特性についてと棚田の造成において何が重要なポイントとして位置づけられるか、そして維持管理がどのように行われているかについて現地調査および空中写真の判読を行った。四国には東西方向の構造線が幾筋も走っているために、地質帯が北から南へ向かって変化するのが特徴である。このため地質体を構成する岩石も異なってくる。本年度の調査ではまず、地質体を特徴づけている岩石により石積み棚田の構成材料の形状が異なってくる可能性があるとの観点から調査を開始した。北に位置する三波川帯は変成作用により剥離性の扁平な形状が特徴とされている。南の四万十帯では砂岩がブロック状に分離・崩壊していくという点から断面形状は四角で幾分角が取れた状態を想定したが、いずれの地質帯においてもブロック状の材料が用いられている。河川から運び上げた丸味を帯びたものはほとんどなく、棚田の造成に時に土の中から出てきたものをそのまま用い、奥行き方向が見えている断面の長径よりは長く、なるべく時間的な効率も良く造成できるような工夫が見える。また、地形との関係では細長い形状の谷の場合には渓流を対称軸として向かい合うように、そして谷の幅が一定より広くなると下流に向かってひな壇のように造成され、材料の大きさは斜面上方となるほど相対的に小さめの材料が中心として用いられている。
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