里山砂防という概念は現在の砂防学の体系の中にはないが、森林・農地を含む農村空間である里山のもつ多岐にわたる機能を再評価し、生産の場としての位置づけを明確とし、さらに防災空間としての機能についても併せて考えていこうとするものである。砂防や治山で施工されている構造物には、渓流に施工され流域にとっての有害な土砂を管理(一時的に貯留したりダムの機能を利用して貯留したものを安全に流す)構造物の他に、河床に安定をもたらす(河床低下を防ぐ)構造物である床固め工がある。初年度は農業用の頭首工について、使用されなくなり本来の機能を果たせなくなっても、河床の安定化に寄与しているころを確認した。次年度は里山地域に良好な景観を提供するという評価の高いに石積みの棚田の現状と、構成材料の利用状況の調査を行った。最終年度の12年度は高知県西部の葉山村を対象地域として、砂防計画における流出土砂の抑制量の定量化を試みた。林地における土砂生産抑制効果については定性的には評価されているが、定量化が困難だというのが現状である。そこで棚田における土砂の一時貯留効果を評価した土砂流出調節量の試算及び、整備率の改善にどれだけ影響するかの評価を行った。 林地の生産土砂抑制量の定量化も含めて棚田の土砂抑制量の厳密な定量化の作業が残るが、渓流沿いの棚田の全面積を土砂貯留面積として考えると、砂防ダム相当の機能の評価ができる結果となった。渓流を流下する土砂を、災害時のみにせよ棚田に導入するとして、その導入経路を如何に設計し構築するかであるとか、あとの復旧作業のための経費と砂防ダムの設置の経費についての厳密な議論は行わなかったが、それを考慮してもなお、棚田による効果は生産の場としての他に防災空間としても絶大なものがある。
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