里山砂防という概念は現在の砂防学の体系の中にはない。しかしながら、森林・農地を含む農村空間である里山のもつ多岐にわたる機能を利用し、特に防災空間としての機能について総合的に研究しようとするものである。基盤整備のもとでの環境保全型農業、持続可能な林業経営が望まれる今、行政の縦割りの枠を外して里山砂防という名の下に砂防事業を展開することで中山間地域の振興の火付け役となると確信している。本研究では、以下の3つの項目を取り上げた。1)林地・農地を総合した空間の防災機能、とくに土砂生産・調節機能の評価方法に関する調査及び実験、2)農地の造成とその景観評価という課題の下に石積みの棚田の現状と展望そして3)里山地域における砂防計画のあり方である。 その結果として;1)治山・砂防構造物に加え河川構造物である農業用の頭首工は、床固工群のように連続して施工されており、河床の安定化機能を発揮している。2)石積み棚田の景観美は広く認められることであるが、使用する構成材料が地質帯による石材の形状による影響よりも、造成される谷底斜面の地形に大きく影響を受ける。また、その積み方は耕作面積を最大限に拡げるために前面をほぼ垂直にし、効率的に施工される。一端破損したものが次々とブロック積みに変わっていくのを食い止める施策も必要である。3)砂防計画において定量化が困難とされてきている土砂量の内、計画生産土砂量の算定にあっては、管理された森林の存在による厳密な生産量の評価や、放棄された渓流沿いの石積み棚田を、一時的な土砂貯留施設として機能させることで計画超過土砂量あるいは河道調節量に反映できる可能性があることを指摘した。
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