研究概要 |
ブナの南限地である高隈山系のブナ林の保全を考えるために、林分構造及び更新の状況を調査した。高隈山頂のブナの個体数密度、胸高断面積合計は10〜300本ha^<-1>,1.5〜7.0m^2ha^<-1>と低いものの、九州南部の他のブナ林に比較すると低いとは言えない。しかし個体サイズは小さい傾向が見られた。樹高・胸高直径・樹冠幅のアロメトリー関係から、伸長成長より肥大成長に光合成産物を投資するといえた。また、高隈ブナの樹高上限は約10m付近であり、他の九州南部のブナ林より明らかに低かった。さらに着葉空間は垂直方向より水平方向に拡張する傾向がみられた。これらは主に常風ストレスに対する適応現象であると考えた。ブナ成木は健全で、著しい樹冠偏倚や衰退は生じていなかった。枯損木の同定結果からもブナの枯損はほとんど生じていなかった。 胸高直径10cm以下と20cm以上のブナの個体数比は0.2未満であり、他の太平洋側ブナ林と同様、非常に低い値を示した。さらに、2m×2mコドラート67個内(スズタケ密生地16カ所、スズタケ疎生地19カ所、スズタケ皆無地32カ所)で、樹高2m以下のブナは全く出現しなかった。このことは、本地域のブナ後継樹不足の原因をスズタケによる更新阻害にのみ求めることができないことを示唆するが、さらに多くのデータで確かめる必要がある。1998年のブナの種子落下量は263個m^<-2>で他のブナ林の豊作年の種子生産量に近かった。しかし、しいな率が約80%と高く、健全種子は平均8個m^<-2>と著しく少なく、更新に有効な量であるとは言えない。こうした低い種子健全率が通年見られるとすれば健全種子の供給量の少なさが更新不良をもたらしている可能性がある。
|