鹿児島県高隈山系はブナの南限地として知られている。このブナの南限地を保全するためには、現在のブナ個体数が将来にわたって維持されるか、減少する危険要因があるかを評価することが必要である。本地域のブナについてのこれまでの究は植生調査があるのみで、ブナの更新実態については明らかでなかった。そこで我々は本地域に分布するブナの生育と更新の現状を調べた。大箆柄岳周辺の稜線沿いにベルトトランセクト5個、30m四方のプロット及び20m×90mのプロットを設定し樹高1m以上のブナについて、胸高直径、樹高、樹冠幅を記録した。また2m四方の稚樹測定用のコドラートを設定して、樹高5〜100cmのブナ稚樹の有無を記録した。さらにブナ樹冠下でシードトラップ法により種子の落下量と健全率を測定し、当年生実生稚樹の発芽及び枯損を記録した。本地域のブナは風衝地にあり樹高成長が著しく抑制されているが、枯損や激しい衰退は確認できなかった。ブナの成木密度はヘクタールあたり約100本で、他の九州南部のブナ林に比較して低いとは言えなかった。しかし20×90mのプロット内で高木生の樹種が占有する林冠面積は約40%にすぎず、著しく低かった。測定したブナのうち約90%が胸高直径20cm以上の個体であり、小径ブナ個体は著しく少なかった。推定年齢によると過去40年内に出現した若木は全体の約6%で、過去20年内に出現した若木はなかった。またスズタケのあるなしに関らず稚樹測定コドラートの全てで樹高5―100cmのブナは確認できず、実生の発生量も著しく少なく全て発芽当年に枯死した。このように、本調査地のブナは著しい更新不良の状態にあった。更新不良の主要な原因として種子の稔性の低さ、冬季の種子乾燥が考えられた。
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